僕の好きなドラマのひとつが、〈나의 아저시〉マイ・ディア・ミスター 『私のおじさん』だった。
主役のイ・ソンギュンは映画『パラサイト』でも、広い芝生のある豪邸に暮らす若き気鋭の社長の役がよく似合う、ハンサムで柔和なスマートな俳優だった。そのソフトな声も印象的で、これからも注目したい俳優であったのに、突然、彼が極端な選択をし旅立ってしまったというニュースに接して、少なからずショックを受けている。
ドラマの中で彼は口癖のように「どうってことない」と言っていたような印象が残っているので、いっそう残念でならない。
このニュースに前後して、たまたま前大王製紙会長である井川意高氏の著書『溶ける再び』を読んでいた。カジノにのめり込み、会社の金100億円以上を使い込み、会長辞任もして獄中生活をするハメになった彼の手記の主なテーマは、創業者井川ファミリー排除のクーデター劇を暴露したものだ。
現在、彼は仕事をしておらず、高等遊民のような生活をしていると告白している。しかし、にもかかわらず井川氏は博打で何億を失っても、地位と名誉と社会的信頼など、あらゆるものを失っても「どうってことない」と言っている。しかし実はそれだけでなく「今にみていろ、もう一度どん底から這い上がってやるぞ」という根性と情熱に溢れた人間かも知れないと、ちょうど著書を読み進めながら思い始めていたところだった。もちろん、彼は愚かしい罪を犯してしまった人間ではあるのだが。
極端な決断をするに至ったイ・ソンギュンにどんな経緯と苦しみがあったのかは想像することもできないが、「明けない夜は無い」という韓国の諺のように、彼にほんの少し、井川氏の様な楽観と強さがあったなら、と惜しまれてならない。(龍)
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